<金口木舌>交通弱者への視線を


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 スティーブン・スピルバーグ監督のデビュー作「激突!」(1971年)は、何気なく追い抜いた車に執拗(しつよう)につけ回されるセールスマンの恐怖を描く

▼運転者の姿は現れない。旧式タンクローリーの巨大な車体が、さながら悪意を持って独立した生命を持つかのごとく主人公の車を追跡する。車大国アメリカならではの恐怖の一つのありようか
▼などと回顧に浸る間に「自動運転車」なる乗り物の時代が到来していた。運転者がハンドルやブレーキを操作しなくても走行する。IT技術を駆使した「究極の安全技術」と呼ばれ、交通事故の多くを占める人為的ミスの減少や渋滞解消が期待される
▼人工衛星の衛星利用測位システム(GPS)を生かし、インターネットの米検索大手グーグル社がけん引する。米国内では一部都市で試験走行が始まっている。同社は高齢や障がいなどの交通弱者の移動の利便性も強調する
▼日本国内でも2020年の東京五輪・パラリンピック開催を分水嶺に各社が実用化に向けた開発競争を始めている。警察庁も法律上の課題や公道実験のガイドラインづくりに着手した
▼事故時の責任の所在、ハッカーによる乗っ取りやテロに利用される可能性など課題も山積する。業界の成長戦略は否定しない。だが、交通弱者が安心して移動できる社会の基盤づくりがまずは先ではないだろうか。