<金口木舌>最後の〝悲鳴〟にしたい


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 亡くなる1カ月前に手帳に残した言葉が痛ましい。「体が辛いです。気持ちが沈みます。早く動けません。誰か助けてください」。訴えを通り越して悲鳴だ。どれほど追い詰められていたか

▼ワタミグループの居酒屋で働いていた26歳の女性が2008年に過労自殺した。その責任をめぐって争われた訴訟で、ワタミ側が謝罪して約1億3千万円の賠償金を支払うことで和解が成立した
▼女性は連日の深夜勤務に加え、休日は創業者の理念集を暗記するなどの研修に追われた。終電以降もタクシー利用が認められず、始発まで店で待機することもあったという。残業は最長で月141時間あった
▼長時間労働やパワーハラスメントなど劣悪な労働環境で従業員を酷使する企業が批判されて久しい。最近は「ブラック企業」「ブラックバイト」なる言葉で評される
▼批判が高まるとともに客や働く人は離れた。ワタミや、過労死を出した居酒屋チェーン運営の大庄は赤字に陥る。一人深夜勤務が問題になった牛丼のすき家は人手不足のため6割の店舗で深夜営業ができなくなった
▼過去に「365日24時間、死ぬまで働け」と唱えてワタミを急成長させた創業者の渡辺美樹氏(参院議員)は一転、責任を認めて謝罪した。人を使いつぶすような企業に消費者や労働者はそっぽを向く。彼女の悲鳴は重い教訓を投げ掛けている。