<金口木舌>透明人間


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 包帯をほどくとその下には何もない。ご存じ「透明人間」の有名なシーンだ。体が透明で姿が見えないため、人に知られず何でもできる。その姿に子どものころは憧れた

▼個人的には、H・G・ウェルズの古典よりも江戸川乱歩の「透明怪人」の方がなじみがある。あの角をひょいと曲がると透明人間に出くわすのではと、幼心にどきどきしたものだ
▼手品や魔法の世界でも「透明化」は定番だ。そこにある物を通り越して背景が見えれば、その物は存在しないように錯覚する。実際、光の屈折率を変えて見えなくした特殊素材も研究されていて、ハリー・ポッターの透明マントも理論的には不可能ではないらしい
▼名古屋大学の研究グループが植物を透明にする試薬「クリアシー」を開発した。特定の部位を蛍光標識して、解剖せずに植物の内部をありのままに観察できるのが特長だ。人間にも応用できれば、病気の早期発見につながるかも
▼一方でなかなか透明にならないのが「政治とカネ」だ。最近も政治資金収支報告書に本来書くべき借入金を記載していなかったり、公選法が禁じる寄付をしたりするケースが発覚した
▼指摘を受けて政治家の事務所は「誤解を受けてはいけないので返金した」と違法性を否定する。18歳選挙権開始を控え、政治不信の払拭(ふっしょく)も急務だ。政治家の透明化こそ図ってもらいたい。