＜金口木舌＞部屋、売ります。

　ブルックリンを一望できる眺めの良いアパート。屋上では家庭菜園でトマトを収穫する。４０年住み続け、夫婦の歴史を刻んできたわが家。ただ一つの欠点は…

▼モーガン・フリーマンとダイアン・キートンの名優２人が夫婦を演じる映画「ニューヨーク　眺めのいい部屋売ります」。ただ、エレベーターがない。５階までの階段は愛犬の方が先にへたばってしまう
▼欠点がない住み慣れた家でもいつしか住みにくくなることはある。高齢化や過疎化を背景に、地方を中心に空き家が増加している。総務省調査では２０１３年時点で全国８２０万戸、住宅総数の１３・５％は空き家だ
▼沖縄は１０・４％と全国平均を下回るが、１割は誰も住んでいないのである。人の気配がなくなった家はすさんだ空気を生む。さらに倒壊や不審者の忍び込みなど地域を脅かす問題にもつながる
▼解体費用の負担や、さら地にすると固定資産税が増えることが放置される一因といい、政府もようやく重い腰を上げた。１６年度税制改正で空き家相続人への譲渡税控除を盛り込む。自治体独自では那覇市が所有者と入居希望者を仲介して活用を促す
▼映画は、家を住み替える決心をした愛情深い夫妻を通し、人生後半の輝きを映し出す。不便な家は２人の歩みを見守り続ける存在だ。家を生かし、将来にわたって活用できる街づくりでありたい。