<金口木舌>拝啓、水木しげる様


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 墓碑銘に朗らかな笑顔を残し、漫画家の水木しげるさんが93歳でこの世を去った。今ごろ極楽で楽しくやっておられるだろうか

▼鳥取県境港の子ども時代、実家のお手伝いさん「のんのんばあ」との交流で十万億土の空想世界にふける。20歳で南洋ラバウルの最前線へ出征、マラリアで死にかけ、爆撃で左腕を失って生死をさまよう。現地のトライ族と親交厚く、戦後50年に及び交流した
▼赤貧の貸本漫画家時代を経て、出世作「テレビくん」を皮切りにヒット作「ゲゲゲの鬼太郎」は国民的作品に成長した。古来各地に伝わる妖怪を広い見聞と遊び心、卓越した技量で“創造”し、大衆に根付かせた。生活のために半世紀以上描き続けた人物像は語り尽くせない
▼伸びやかな精神が擬音に宿る。「ヤーッホーッ」(「河童の三平」の死に神と河童の対決場面)「ごにょごにょごにょー」(「のんのんばあとオレ」でのんのんばあが拝む声)
▼鬼太郎のげたは「カランコロン」、おならの傑作は「な、ぷーん」。では「ビビビビビーン」をご存じか。天性ののんきが災いした軍隊で毎日上官にびんたを張られる音だ。水木漫画おなじみの音である
▼出征前、死について悩みゲーテなどの哲学書を読みふけり繊細な手記も残した。「総員玉砕せよ!」では空腹のまま身体をもがれて死に、戦野に朽ち重なる若者が沈黙する。絶対に忘れない。