<金口木舌>警察権と軍事力


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 どうも尖閣諸島周辺が騒がしい。尖閣周辺に現れる中国公船のことではない。それに呼応する形で「尖閣に自衛隊出動」と伝える県外紙の過熱ぶりのことだ

▼ある全国紙が、尖閣周辺の中国公船の接近をめぐり「尖閣侵入なら海自が海上警備行動」と、中国軍艦の領海侵入に自衛艦の派遣方針を中国に伝えたと報じた。海域には海上保安庁の巡視船が常駐するが、軍艦には軍艦をというわけか
▼中谷元・防衛相は、記者から尖閣での自衛艦の活動について問われ「警察、海上保安庁などの対応が困難な場合、海上警備行動で自衛隊が対応することは原則としてある」と答えた。これを受け各社も「中国の領海侵入をけん制」などと展開した
▼喧伝(けんでん)される中国の軍事力の拡大に、市民の間でも「中国が尖閣に攻めてくるのでは」と大真面目で語られる。「だから自衛隊を配備しないと」と、先島への自衛隊の必要性につなげたい誰かの意図も働いているのか
▼尖閣警備には警察権である海保が巡視船を増強させている。中谷氏の発言は、警察権で対応できない場合の原則論を言ったにすぎない。軍事力での対応は、逆に相手の軍事力出動の根拠にされかねない
▼戦争の発端にはしばしば軍の暴走が指摘される。先の大戦では報道機関が形作った「空気」もそれを支えた。二度と同じ轍(てつ)を踏まないよう日々紙面が試されている。