<金口木舌>良き仲立ち


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 詩人吉野弘さんの詩「生命は」の中に、こんな一節がある。「生命はすべて/その中に欠如を抱(いだ)き/それを他者から満たしてもらうのだ」。人生は一人では完結できない。だから他者の仲立ちが必要になる

▼学びの途上にある青年期は、脇目も振らず、自らを育むため全精力をつぎ込む。仲立ちは支えに解釈を置き換えていい。だが支えられる側は、それに気付かないことがある
▼それでも次第に独り善がりだった殻から抜け、やがて家族や地域、社会の支えを意識し、歩み始める。歩む道は平たんばかりではないし、いばらの道もあろう。中には他者を無視したままの大人があらぬ道へ陥れることもある
▼本島中部の高校生(18)が大麻を譲り受け、所持していたという。成長期にある心身に付け入り、前途を傷つけてしまう。若者が大人の浅ましさの犠牲になることには胸が痛む
▼県警のまとめで、2015年の大麻や覚せい剤など違法薬物の摘発人数は前年より42人増え、167人に上った。人数が最多を更新し「若者世代に大麻の乱用が広がっている」という
▼即物的な欲にかられて人を傷つける大人がいる現実もある。幾つになっても人に欠如があるならば、再び綻び始めた仲立ち、支えの輪を結び直す必要がある。将来ある若者を蝕んで恥じない事件に接するたび、良き仲立ちが社会に増えることを願う。