<金口木舌>力秘めた言葉


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 最近の暑さからすると、1週間前がうそのよう。沖縄で39年ぶりに「みぞれ」が降った。読者や記者から情報が多く寄せられたが、整理に追われた

▼「雪」「みぞれ」「あられ」「ひょう」。目撃例は多種にわたった。状況を詳しく聞くと、ほぼ「あられ」。雪になじみの薄い県民だけに区別できないのも無理はない。それを考慮せず言葉だけで捉えると、判断を間違えることもある
▼先日、バスに乗っていると、ある停留所で乗り込んだ高齢の男性が「アキサミヨー」と口にした。運転手が「何がですか」と聞いたが、男性は答えずバスの後方へ。頭の中の出来事に対する言葉だったか。発する時と場所を選ばないと周囲に動揺を与えかねない
▼人に力を与える言葉もある。中脇初枝さんの小説「きみはいい子」。親から虐待を受けている少年に、担任が「いい子だよ」と声を掛けると、少年は涙を流す。本来は親が言うべき言葉だ。結果は描かれないが、少年の心に火をともしたことは間違いない
▼1月15日付の本紙連載「希望この手に」。「頑張れよ」とはよく耳にする言葉だ。だが、貧困や父親の暴力に苦しみながら進学への努力を続ける少年には特別だった
▼父親から初めて掛けられた優しい言葉に少年は涙を流す。怒りや不満も吹き飛んだという。人の心を動かす力を秘めた言葉を、大事に伝える新聞でありたい。