<金口木舌>根本と暫定


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 普通の音は伝えるが、爆音は伝えなくする鼓膜。現実の話ではない。漫画家、手塚治虫さんの名作の主人公、無免許医ブラック・ジャックが行った手術の一つだ

▼ある飛行場のそば。航空機騒音でノイローゼになった男性が鼓膜を破る。たまたま近くにいた主人公が手術をするが後日、男性は元に戻すよう頼む。男性は付近の住民で騒音公害と闘っているとし、言い放つ。「爆音のほうをなくすことが先なんです」
▼飛行場の関連団体がその住民全てに手術できるよう施術法を聞きに来るが、主人公が断るところで物語は終わる。「暫定的解決」と「根本的解決」。名護市辺野古の新基地建設をめぐる代執行訴訟で裁判所が示した和解案。報に触れ、この話を思い出した
▼男性にとっての根本的な解決は騒音自体をなくすことだ。鼓膜の手術は、関連団体にとってどちらの解決策だったか。県民にとって普天間問題の根本的解決は県外への移設しかない
▼県内の米軍基地周辺地域で射撃訓練や廃弾処理などの騒音被害については、本土と違い被害把握の調査さえ行われていなかった。解決どころか対処する意思もなかったということだ
▼手塚さんが世を去ってあす9日で27年。普天間問題が浮上した時にはすでに亡くなっていた。沖縄に関する漫画も複数残した巨匠が生きていたら、現在の沖縄のこの不条理をどう描いただろうか。