<金口木舌>えっさーほいさのまじめ歌


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 「他人を励ますのは、気楽です/自分を励ますのが、大変なんです/私は誰か、私は何か/知ってしまったあとだもの」(吉野弘)

▼とはいえ周りの人すら適度に励ましているか、と自問する。那覇市の初優勝で幕を閉じた第39回沖縄一周市郡対抗駅伝は、さながら激励の“大見本市”だった
▼奥武山から摩文仁、東海岸を北上し、国頭で折り返して出発点に戻る2日間、287・9キロ30区間を14市郡が競う。時速十数キロで走者を追う監督車両のスピーカーから響く、愛と笑い満載の激励は聞くと癖になる
▼勾配や順位争いに「えっさーほいさ、えっさーほいさ」の“呪文”。走者の職場も紹介し「応援お願いします」は選挙カーにも似て。急な上り坂で「目の錯覚だよ、本当は下りどー」。「おまえならできる、できるよ」で暫定首位が入れ替わり、勝手に地域柄も妄想する。国頭郡に「国頭(くんじゃん)サバクイ」の匂いを、八重山郡に「トゥバラーマ」の旋律を。沖縄はかように深い
▼復路の7日朝、本部町で北朝鮮「ミサイル」発射と沖縄上空通過を携帯メールで知る。自衛隊の主力走者が「急な仕事」で出られないチームもあり、迎撃のPAC3県内配備騒動や有用性を同僚と語らう
▼冒頭の詩「ぬけぬけと自分を励ますまじめ歌」はこう続く。「都合のいい夢咲かせていよう/私は遅咲き大輪の花」。まずは身近な誰かを励ますことから。