<金口木舌>帰れぬ孟母たち


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 子どもの教育を考え三度住まいを替えた母をいにしえの人は賢母とたたえ故事とした。いま、この国には子どもの健康を考え住み慣れた土地を離れる“孟母たち”がたくさん生まれている

▼東京電力福島第1原発事故の後、福島などから多くが避難した。避難指示区域からの「強制避難」はもちろんだが、政府の指定する避難地域ではないものの自主避難した人たちもいる
▼自主避難は福島県の推計で約7千世帯、約1万8千人。与那原町の人口、世帯数に相当する。避難指示区域からの避難者と違い、東京電力からの月額10万円の賠償はなく経済的にも厳しい
▼沖縄にも多くの避難家族が住む。ある女性は被ばくを恐れ、事故直後から子ども4人と母子避難をしている。夫は福島で働き、離れ離れの生活に心も体も疲れ切っていると話す
▼原発事故から5年。福島県は県内外に暮らす自主避難者の住宅無償提供を2017年3月末で打ち切る。帰還を促す狙いがあるのは分かるが、安心できる正確な情報提供と除染をしているだろうか
▼事故収束のめども立たないのに安倍晋三首相は五輪招致で「状況はコントロール下にある」と述べ、丸川珠代環境相は1ミリシーベルト以下という国が定めた除染の長期目標について「何の根拠もない」と言い張った。政府情報の不信を解かなければ、孟母たちは帰りたくても帰れない。