<金口木舌>花の季節に


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 暖冬で桜の開花も早いという。毎年開花予想をめぐりメディアが騒ぎ、外したお天気キャスターがわびる。沖縄にいたころは「大げさな」と思った。だが東京で冬を3度越した身には、春への希望を桜に託す気持ちがよく分かる

▼92年前、初めて「沖縄県人会」と名の付く組織が神奈川県川崎市で生まれた。1923年の関東大震災で、着の身着のまま焼け出された沖縄出身の紡績女工たちを助けた同胞が結成した
▼始まりは相互扶助だった。東京、大阪、兵庫など多くの県人会が沖縄戦、米軍占領、復帰運動と試練の続く故郷沖縄を思い、援助してきた。沖縄に暮らしたことのない2世、3世が「沖縄人(ウチナーンチュ)」のルーツを絆につながっている
▼3年前から本紙毎月第3木曜日付「県人ネット」のページで、県外に住む約200人の沖縄人を紹介してきた。北の地で努力して花を咲かせた人は、淡いピンクのソメイヨシノというよりも、鮮やかに長く花を付けるヒカンザクラがふさわしい
▼「ハナニアラシノタトエモアルゾ/『サヨナラ』ダケガ人生ダ」。中国唐代の詩人、于武陵の詩「勧酒」の一説を井伏鱒二はこう訳した。花が風雨に散るように、人生に別れはつきものだと
▼この詩を受けて寺山修司は「さよならだけが人生ならば/人生なんかいりません」と書いた。別れへの未練がましさの方が好ましく思える春である。