<金口木舌>消えなかった記憶


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 後頭部を強打したところまでは覚えている。半日たって病院のベッドで記憶を取り戻すまで、数日前からの記憶を完全に忘れていた。回復するまで覚えることもできなかったらしい

▼「何を言っても忘れるから、繰り返し聞かれますよ」。ベッドの頭越しに聞こえた病院関係者同士の会話だ。覚えているということは、すでに回復し始めていたということだ。はっきり記憶に残っている
▼自分がすぐに物事を忘れてしまう状態だと突然知らされ、大きな不安を感じた。重ねてこのような会話が本人の聞こえるところで堂々とされたことも信じられなかった
▼聞こえてもすぐ忘れるから、と思ったのだろう。聞こえているかいないかは別にして、もっと患者の気持ちを考え、配慮してほしかった。1日、「障害者差別解消法」が施行された時に同じようなことを思った
▼障がい者に対する差別や不平等な扱いはあってはならない。加えて自分は差別などしていないと思っていても、障がいのある人の立場に立って考えなければ配慮の欠けた行動をしてしまい、差別につながりかねない
▼「県手話言語条例」が可決された県議会本会議で手話通訳があったことは歓迎したい。だが、障がい者が知りたいのは障がいに関する条例だけではない。一人一人が相手の立場に立って思いやる社会になれば、誰もが暮らしやすくなる。