<金口木舌>原発20キロ圏の町で


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 東京電力福島第1原発に近づくと線量計の数値が一気に上がった。「0・61」から「4・20」。被ばく限度である毎時0・23マイクロシーベルトの18倍だ。原発まで2キロ、目に見えない放射線の怖さを痛感した

▼3月末の2日間、原発20キロ圏内を地元のNPOの方に案内してもらった。「帰還困難区域」を南北に走る国道6号は、窓開けや停車が禁止されている。沿道の大型店内には多くの商品が陳列されたままだ。緊急避難の状況が想像できる
▼許可証を見せて入った地域には、津波で壁が壊れた家が幾つも残る。主のいない冷蔵庫やソファがむなしい。ひっくり返った車や自販機も放置されたまま。5年前から時が止まっている
▼帰還困難区域に通じる道はガードレールで封鎖され、住宅の入り口は鉄のバリケードに鍵が掛かる。家主さえも入れない。普通の住宅街の風景なのに、不気味な静けさだ。無人の街を他県警の応援パトカーが何度も通る
▼福島県の避難者は人口の5%の約10万人。日常や古里を奪われ、人間関係を分断されてしまった。一方で、事故を忘れたかのように原発の再稼働が各地で進む。政府も安全を強調する
▼沖縄と同様、福島からはこの国の政治の無策、無力がよく見える。東京五輪に浮かれている場合ではない。「同じ日本なのにこういう所があっていいものか」。案内者の言葉が今も耳に残る。