<金口木舌>貧困と沖縄戦


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 お笑いコンビ麒麟(きりん)の田村裕さんは中学生でホームレスとなった。著書「ホームレス中学生」によると、母親が病死、その後父親もがんを患ったことが原因で職を失い、借金取りが家に来るようになった。父親の「解散!」の一言で家族は離散した

▼病気が原因で家族離散とは、誰にでも起こり得る話だ。田村さんと同様に親の事業の浮き沈みで厳しい子ども時代を送った人、そのような状況に置かれている人も多いだろう
▼一方、沖縄では貧困が何世代にも続く世代間連鎖が課題となっている。田村さんは「親の病気」がきっかけだったが、それを「沖縄戦」に置き換えると沖縄の貧困の背景が見えてこないだろうか
▼両親を失った「戦争孤児」、家計を助けるため働きづめで学校に行けなかった人、十分な教育が受けられず就職先が限られてしまった人を思い起こしたい。福祉の恩恵は復帰まで微々たるもので本土との格差は広がった
▼田村さんを含め逆境から今の安定した生活を手に入れた人はよく報道される。しかし厳しい生活のまま亡くなっていった人やその子や孫が今どのような状況に置かれているのか、思いをはせずにはいられない
▼田村さんは同級生の親たちに救われ、約1カ月のホームレス生活に終止符を打った。「こども食堂」の広がりに見られるように、気付き、行動することは未来への希望につながっている。