<金口木舌>賢い心


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 80分しか記憶がもたない元大学教師の初老男性が、家政婦の連れてきた子どもと初体面した時、頭をなでてこう言う。「おお、なかなかこれは、賢い心が詰まっていそうだ」。作家小川洋子さんの「博士の愛した数式」の冒頭場面だ

▼子煩悩な数学の元教師と、雇われた家政婦親子との交流を描く。元教師は何を置いても子どもの成長に気を配り、子は、その生きる苦しみや悲しみをしなやかに受け止める。やがて中学の数学教師に。見ず知らずの間柄でも時に共鳴する生き方を伝える
▼医療の発達もあり、未曽有の高齢社会を迎える中、厚生労働省は2025年に、記憶が欠落する認知症患者が700万人に達すると推計する。ならば障がいや齢(よわい)を重ねた人々と、どう共鳴していくかに思いを致したい
▼沖縄市のNPOきづきの事務局長、佐久川伊弘(よしひろ)さんは、認知症など障がいの正しい知識と接し方を子どもに伝える。「最初はショックを受けても適切に対応できるように」と
▼3月30日には沖縄市青少年センターで講話した。「私たちは障がい者と接することでたくさんの感謝の気持ちを実感し、力に変えられる」。障がいに心を開いて向き合って、と説く
▼県内では世代を通じて触れ合う機会も多く、障がいも身近に実感する子が多いという。「賢い心」が詰まる子どもへ思いを率直に語り、共鳴する機会が増えるといい。