<金口木舌>清明の味


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 年を重ねるごとに洋風から和風、沖縄の郷土料理へと味の好みが変わってきた。島野菜と島豆腐のチャンプルーがうまい。肉も分厚いステーキより三枚肉の煮付けやスーチカーに箸がのびる

▼清明祭とくれば、郷土料理を詰めた重箱の出番だ。家によって味付けは違うので、親類が集う墓の前でさまざまな味を楽しめる。ゴボウや昆布の食べ比べは清明祭の隠れた魅力だと思っている
▼最近では大手スーパーの清明商品を利用する家庭が増え、食べ比べの魅力は半減した。共働きの忙しい家庭にはとても便利な商品だが、清明祭が待ち遠しいガチマヤーには物足りない
▼沖縄の先達が残した随筆も清明祭の味に触れている。東恩納寛惇の「童景集」には「餅やら煮〆(にしめ)やら菓子やら果物や握飯やら、処狭きまで並べ立てて祭りを行ひ、そのお流れを皆が戴く、男達は酒を呑む、女連は茶を呑む」とある
▼沖縄初の女医で随筆集「カルテの余白」がある千原繁子さんの思い出は天ぷらであった。1898年生まれの千原さんが幼少期、天ぷらは庶民には縁がなかったが、清明祭やお盆では「おおっぴらに楽しんで食べた」という
▼フライドチキンや宅配ピザが墓庭に並ぶご時世だが、重箱の伝統は受け継ぎたい。できれば、お手製の料理も並べてみよう。先人から受け継いだ味付け一つで、清明祭の魅力も増すだろう。