<金口木舌>泳いで、こいで、走れ


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 国内トライアスロン大会の創成期・1985年に始まり、ことしで32回を数えるのが全日本トライアスロン宮古島大会だ

▼日本トライアスロン連合の紹介する2016年度国内大会(デュアスロン含む)が大小220を数える中、もはや“老舗”だ。大会当日に向けて同僚が送ってくる記事を読み、参加者やボランティアのかけがえのない声に触れる
▼人にもまれて3キロの荒波を泳ぎ、バイク157キロをこいだ仕上げがフルマラソン42・195キロという202キロの長き道。「何でそんな苦しいことを」と少なからぬ人が思うだろう
▼長くマラソンとトライアスロンを続け、墓碑銘には「作家(そしてランナー)」と刻みたいと10年前の著書に書いた村上春樹氏の言葉にこうある。苦痛をあえて求めるからこそ「自分が生きているというたしかな実感を、少なくともその一端を、僕らはその過程に見いだすことができるのだ」
▼こうも書く。本当に価値ある物事は成績や数字の中にはなく、「効率の悪い営為を通してしか獲得できない」。大事なことは行為の過程にこそあると。それでも出るからには皆、もちろん完走を目指す
▼甚大な被害を出した熊本地震の影響で欠場する人もいる。夢や情熱、挫折、傷心、老い。思いを抱える1600人余が一斉に泳ぎ始めれば、長くて熱い島の一日の幕開けだ。号砲はあす。ワイドー。