<金口木舌>感性は自由に


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 格式や流儀にはとらわれない。他者を慈しむ-。コップ酒を片手に我流を貫く画家の真骨頂が、そこにあろう。白ひげをたくわえた抽象画家、山城見信さん(78)。その作品は人となりが相まって、さらに味わい深い

▼黒を基調とした作品は、至る所に引っかき傷らしき跡や凹凸がある。「引っかき傷は猫のみゅーちゃんに教わった」。助手は愛犬「とっと」と言う。「作品には手を触れないで」ではなく「触って感じるもの」が持論だ
▼山城さんの15年ぶりの個展「KURÜ(黒)」が5月9日まで宜野湾市の佐喜眞美術館で開かれている。作家公認とはいえ、観覧者は最初、遠慮がちに作品に触れる。すると不思議なことに表情がたちまち緩み、和んでいく
▼「創作は理屈じゃないからね」。特に抽象画は「自由に感じたままがいい。感性は人間の持っている大事なもの」。見る人に先入観を与えることもしない。だから作品を言葉で意味付けることはしない
▼会場には、山城さんが県立盲学校で美術教師をしていた時に生徒が創作した立体造形も展示している。凹凸のある作品、触れる見せ方の原点は、視覚障がい者と共に生きた記憶を反映してのものだろう
▼実際に触って、作品から何かを感じる。そんな鑑賞スタイルもありだ。誰にでも作品を開放し、自らの感性を育ませる。そんな営みが共生や平和を考える礎になる。