<金口木舌>笑いの力


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 経済が発展している時こそ笑いが必要となる。豊かになるほど心に闇が生まれるからだ。沖縄国際映画祭の関連シンポジウムに参加したお笑い芸人の言葉である

▼「貧しい時代、笑いに救われた」とはよく聞くが、その逆もある。笑いの効用は幅広い。経済的豊かさの裏にある心の闇を照らすのも笑いの力である
▼例えば「不謹慎狩り」はどうか。熊本地震で寄付したと報告する芸能人を「売名行為だ、不謹慎だ」とする批判が飛び交っている。日本社会に潜む闇を見る思いだ。こんな重苦しい空気は、すかっとした笑いで吹き飛ばしたい
▼笑いは時代の闇に光を当てる。記録作家・上野英信さんの「地の底の笑い話」は坑道深く潜った炭坑労働者の緊張をほぐす笑いを描いた。坑道に据えたカンテラのように地底で輝いた笑いは高度成長期日本の裏面を照らした
▼辺野古に集う市民の笑顔は歴史と対峙する沖縄の意志を表現する。その原点を敗戦直後の石川に見る。肉親を失った人々を慰める小那覇舞天らの「命(ぬち)ぬ御祝事(ぐすーじ)さびら」の精神だ。笑いは生きる力となる
▼64年前の4月28日、講和条約が発効した。当時の本紙には大宜見小太郎さん率いる「大伸座」や真喜志康忠さんがいた「珊瑚座」の公演告知が載っている。「分断の歴史」に嘆く人々を励ますような笑いもあっただろう。それは時代を動かす力となったに違いない。