<金口木舌>忘れさせない沖縄


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 著書「忘れられた日本人」で知られる民俗学者の宮本常一さんは1969年に沖縄を訪れ、「私の日本地図-沖縄」と題する書を編んだ。浜比嘉島の古老との対話は、復帰前の県民意識を垣間見るようで印象深い

▼「復帰してしあわせになると思いますか」という宮本さんの問いに「しあわせになるとは思えません。それでも本土へ復帰したいですね」と古老。「アメリカはどこまでも他所(よそ)者です。本土はやっぱり内輪ですから」
▼本土を「仲間」と受け止める古老の言葉に接し、宮本さんは自問する。「そういう期待にこたえるだけのものを本土の人たちは持っているであろうか」と
▼日本の原像を沖縄に求めた芸術家の岡本太郎さんは手厳しい。「本土のオプチミストのように、戦争でとられた領土が返ってくる、めでたい、祝えという感覚で処理されたのでは、この島々は浮かばれない」
▼旅の中で庶民を見つめた宮本さんは、沖縄の旅で本土に対する複雑な住民感情に接し「血の通った復帰」を願った。岡本さんは「本土がむしろ『沖縄なみ』になるべきだ」と論じた。自身の沖縄観をまとめた書には「忘れられた日本」の副題を添えた
▼民俗学者や芸術家の言は今も古びていない。この国の為政者は無神経に、時には冷酷に沖縄を扱ってきた。そのことを忘れてはならない。復帰44年を前にした沖縄から本土への注文である。