<金口木舌>熊本城を復興の象徴に


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 「あの石碑、文字の配置が変だと思いませんか」。案内者が指さしたのは「特別史跡熊本城」と刻まれた石碑。文字が真ん中ではなく上に寄っている。「下に1字分空いているのは理由があるんです」

▼昨秋、地元の歴史家に熊本城を案内してもらった。国が特別史跡に指定した正式名称は「熊本城跡」。しかし県民にとっては「跡」ではなく今も「城」そのもの。半世紀前に有志が碑を建立した際に「熊本城」と記し、国から異議が来たら後で1字付け足せるようにしたという
▼県民の思いの深さが伝わる逸話だ。その心のよりどころが甚大な被害を受けた。武将・加藤清正が築いた難攻不落の城も、2度の激震には耐えられなかった。国の重要文化財13件全てが損壊、石垣も50カ所以上が崩れた
▼日本三名城の熊本城は、3年連続で「行ってよかった城」1位に輝き、全国にもファンが多い。立ち入り禁止の今も、城の周りには大勢が訪れているそうだ。痛々しい姿に涙を浮かべる人もいる
▼文化庁は再建の専門チームを発足させた。復元には100億円超、最低でも10年かかるが、復興の象徴として進めてほしい
▼あの激震から明日で1カ月。熊本日日新聞によると、街角には「負けんばい」の文字が増え、少しずつ日常が戻りつつある。一方で自宅に戻れない被災者もまだ多い。被災地へ目を、耳を、心を向け続けたい。