<金口木舌>未来へ誘う言葉とは


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 幼いころ、家に1台の電蓄があった。若い人は知っているだろうか。電気蓄音機の略、レコードプレーヤーのことだ。よく聴いたレコードに、先日急逝した冨田勲さんの作品があったのを思い出す

▼ドーナツ盤ではなく、78回転のSP盤だった。シンセサイザー音楽に取り組む前の初期作である。電蓄のスピーカーが放つ雑音混じりの曲は迫力にあふれ、童心を未来へ誘った
▼冨田さんは1975年の海洋博で沖縄と接点を持った。未来の海上都市「アクアポリス」の音楽を担当している。プロデューサーは手塚治虫さん。「ジャングル大帝」などのアニメとテーマ曲で名作を生んだコンビである
▼「海-その望ましい未来」をうたった海洋博の一方で、乱開発や米軍演習による環境破壊が進んだ。石油基地に反対する金武湾闘争も激化していた。戦後を代表する漫画家と音楽家は、沖縄に渦巻く矛盾を見詰めながら未来を描き、奏でたであろう
▼この時代、県知事の屋良朝苗さんも「矛盾の塊」を見詰め、未来を展望した。「この混乱の時代は正しい理念が貫き、一条の光となってわれわれを導かねばならないと考えております」とは76年の退任あいさつの言
▼困難の中で、私たちを未来へ誘う音楽や漫画があった。政治家の言葉はどうか。本紙ホームページが公開している雑音混じりの屋良さんの声を聞きながら考えている。