<金口木舌>耳をすませば


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 昨年度、市民から沖縄市立郷土博物館へ寄せられた文物は70点に上る。故人の遺品を親族らに分け与える「形見分け」のような思いを込めた寄贈もある

▼市池原の神衣装、米軍基地内の学校で使われた1972年8月制作の教材スライド…。「もう使わないから」「整理したら出てきたが、処分するのは惜しい」。いずれも役割を終え、家の片隅にしまい込まれていた
▼市上地はかつて県内で一、二を争う竹細工の村として知られた。野菜などを運ぶ「バーキ」(かご)作りが農業の副業として栄えた。バーキを制作した人のひ孫が見学に訪れ、曽祖父の技に触れて得た誇りを自信と励みにした
▼千人針は去る大戦の際、盛んに贈られた。1枚の布に多くの女性が糸を縫い付け、縫い玉を作る。そうして兵士の幸運を祈った。祖父の形見の千人針を見るために、息子や海外から孫が訪れ、故人を偲(しの)ぶこともある
▼郷土博物館の学芸員川副裕一郎さんによると、30年以上前から収集した歴史民俗資料は4千点を超える。その大部分は市民の寄贈によるものだ。個人で保存するには手間がかかり、置き場もいる。そんな事情もあって郷土博物館へ贈られた
▼それを展示する新収蔵品展が7月3日まで開かれている。収蔵品の数々は、それぞれの時代を映し出す。時代にもまれた多くの「形見」が激励や戒めの言葉を語り掛けている。