<金口木舌>いぶし銀の音色


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 弟子に請われ、約10年ぶりの舞台に立った。6月末、うるま市石川会館で開かれた琉球古典音楽野村流音楽協会石川支部の創立70周年記念公演。伊波善吉さん(82)は幕開けの3曲で弟子らと「いぶし銀」の音色を響かせた

▼12歳のころから三線を始め、古典芸能の道を歩んできた。70年の芸歴は、支部の歴史と重なる。支部の歩みを体現する伊波さんに、弟子が「記念公演に、ぜひ出演してほしい」と頼んだ
▼伊波さんはこの10年、体調面から三線を「休んでいた」。4年前には心臓の手術を受けた。手足が弱り、体力の衰えも避けられない。聞こえづらさもある。だが、弟子が伊波さんの芸への探究心を呼び覚ました
▼5月に出演を快諾し、毎日10分から15分、練習する伊波さんを家族も温かく見守った。直前のリハーサルは車いすで臨んだ。公演を終えた伊波さんは「皆さんが気遣ってくれたもんだから。無事に終わって良かった」と感謝した
▼民族学者の梅棹忠夫さんが指導者の心構えを説いた言葉を思い出す。「請われれば一差し舞える人物になれ」。普段は後ろに下がっていても、いざ頼まれれば見事に舞う。いつでも主役交代ができるよう、日頃から自らを磨けということだ
▼後に続く者が仰ぎ見る先達は、「一差し」で芸の神髄と力を身をもって示す存在であれ。伊波さんの三線の音色がそう伝えている