<金口木舌>懐かしい香り


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 懐かしいと感じる香りや匂いがある。蚊取り線香やプールの消毒剤の匂い、マッチを擦った時の匂いなどもそう

▼先日の取材で懐かしい香りをかいだ。本部町伊豆味で収穫、加工が始まった香り草、ヤマクニブーだ。生前の祖父母の家を思い出した。祖父母の服からも同じ香りがしていた。親類宅では玄関にこの香り草がつるされていた
▼名前は取材で初めて知った。伊豆味の特産物だとは思いもしなかった。今でも愛用する人はいるかもしれないが、生産量が約10分の1に減ったというから、知らない人は多いだろう
▼伊豆味に住む古堅千枝さん(95)は長年、ヤマクニブー作りに携わった。収穫、加工できるのは年1回、梅雨明け後の約3週間程度だ。約2万束作っていた頃は、自らトラックで那覇の農連市場に運んでいたという
▼「この家はヤマクニブーで建てたよ」と笑う古堅さんは誇らしげだった。蒸して乾燥させないと香りは出ない。「いい香りがすることに気付いた先人は偉い。その知恵をずっと継いでいきたい」との言葉が耳に残った
▼県内で作っているのは現在、古堅さんの跡を継いだ婿夫婦を含めて2軒だけ。伊豆味の特産物として支援しようと、本部町も本腰を入れ始めた。若い世代にも親しんでもらうために、包装するなど工夫した商品も生み出されている。絶やしてはいけない沖縄の文化だ。