<金口木舌>団らんのかたち


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 「ただいま」に「おかえり」の声は返ってこない。ただ、決まってそのタイミングでかかってくる1本の電話がある

▼6日に開かれた青少年の深夜はいかい防止などを目指す名護市民大会。名護小学校6年生の宮城聡真(そうま)君の意見発表に心を打たれた。電話の主は、伊江島に住む祖父玉城清次さん(76)だ
▼電話の後、聡真君は野球の練習に行くのが日課だという。時々家に帰るのが遅れるが、祖父はつながるまで何度もかける。玉城さんに理由を聞くと「共働きの両親は帰宅時にいないから心配だし、寂しいだろうと思って」とおもんぱかった
▼玉城さんは高校進学のため、伊江島を離れた聡真君の母祐美さんにも、毎朝「おはよう」の電話をかけ続けた。周囲からは「嫌がられるよ」と言われるが、聡真君は「おじいちゃんのおかげで、一度も寂しいと思ったことはない」と感謝している
▼社会問題になっている青少年の深夜徘徊(はいかい)や飲酒。「家族というのが大好き」という聡真君は「そういう行動を取ることが信じられない」と言い切る。仕事が忙しい両親も夕食は必ず一緒に食卓を囲むという
▼意見発表の題は「おじいちゃんとの団らん」。電話での会話を通しての団らんだが、聡真君にはかけがえのない時間だ。自分を心配してくれる存在がいることはどんなに心強いか。遠く離れていても、できることはある。