<金口木舌>9条の原点


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 機動隊に語り掛ける市民を、幣原(しではら)喜重郎首相は「世界史の扉を開く素晴らしい狂人である」と言う。それを聞いた主人公は「そうか。戦争を放棄するのは国じゃない。私たちなんだ」と気付く

▼米軍のヘリパッド建設に揺れる東村高江を舞台にした朗読劇「すべての国が戦争を放棄する日」の一幕である。事実を基に、今と昔の人物が交錯する。「市民ではなく砂利を守るのは変でしょ」と機動隊に話す市民を、幣原は絶賛する
▼幣原は終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)に憲法9条を提案した首相だ。舞台では「軍縮は不可能」と言いつつ、こう続ける。「可能にする方法があるとすれば、世界が一斉に一切の軍備を廃止することだ。こう考えると9条が思い浮かんだ」
▼劇中の彼は強烈な皮肉を込め、多くの人々が自ら「狂人」にならない限り、世界は軍拡競争のあり地獄から抜け出せないとし「その歴史的使命を日本が果たす」と主張する
▼国会は今、改憲勢力が3分の2を占める。9条を巡る議論が今後本格化する。国会にどれだけ「狂人」がいるかが問われる
▼劇の主人公も機動隊員の「良心」に訴えた。「いつか、この中の何人かが理不尽な命令を拒否してくれるかもしれない」と願って。それは戦争を放棄する人が増えることだと。高江で市民らが訴えている「理不尽」に、いま一度、耳を澄ましたい。