<金口木舌>共生社会への火


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 片手で火が付けられるライターは、人に優しい「ユニバーサルデザイン」の先駆けだそうだ。両手が必要なマッチよりも便利だ。第1次世界大戦中、腕を負傷した兵士が使えるように、ライフル銃の薬きょうで作ったのがトレンチライターだと言われる

▼ユニバーサルデザインとは、お年寄りや障がい者だけでなく誰もが使いやすい製品や環境を指す言葉。温水洗浄便座も、もともとは痔の患者や妊産婦向けの医療機器だった。シャンプーのボトルの突起や低床バス、投入口の低い自動販売機なども、日常に溶け込んでいる
▼「バリアフリー」が物理的障壁を取り除く引き算の考え方なのに対し、ユニバーサルデザインは全ての人に優しい仕様を目指す掛け算の考え方だ
▼ここ数年は、さらに進めた「インクルーシブ」もよく使われる。直訳すると「包含する」。障がいの有無にかかわらず分け隔てなく社会が包み込むことをいう
▼インクルーシブ条例とも呼ばれる「県共生社会条例」が施行されて2年半。障がい者団体が当事者として積極的に関わって成立したが、定められた調整委員会が一度も開かれていないことが分かった
▼条例はゴールではなく、共生へのスタートのはず。簡単に付くライターとは違い、多くの人の願いや努力が集まって付いた大きな火だ。理念に命を吹き込む取り組みを続け、生きた条例にしたい。