<金口木舌>残してほしい光景


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 やんばるの人の温かさに触れ、胸を打たれたことがある。2002年10月、大宜味村の老人ホームでカジマヤー祝いを取材した時のこと。入所者がホームのバスに乗って出身区をパレードするというので女性3人の地元、塩屋区に足を運んだ

▼区の海岸には3人の到着前から高齢の女性ら200人以上が集まっていた。区で行われる伝統行事「ウンガミ(海神祭)」さながら、女性らは太鼓を打ち鳴らし、まるで祭りのようだった
▼3人がバスから降りると、高齢の女性らは「オバー、オバー」と声を上げながら、取り囲んだ。「元気だったね」と互いに声を掛け合い、涙を流しながら再会を喜んでいた
▼家族と離れてホームで暮らすお年寄りの心情はとても推し量れない。だが、これほど地域に大事にされ、つながりが残っているなら3人も幸せではないか。そう感じたことを昨日のことのように思い出す
▼全国有料老人ホーム協会が8日、今年のシルバー川柳の入選作品を発表した。「金が要る 息子の声だが 電話切る」「金よりも 大事なものが 無い老後」
▼思わず吹き出す作品が並ぶ。その一方で、地域どころか家族との結び付きの薄ささえ感じさせる作品もあり寂しくもある。きょうは「敬老の日」。14年前に塩屋で見たような光景が、今でも多くの地域で繰り返されていることを切に願う。