<金口木舌>差別にあらがう文化


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 この1行に目が止まった。「孤独な死亡者引取 七名」。関西沖縄県人会の大正13(1924)年の実践報告にあった

▼県人会は、労働災害でのけがを理由に解雇された県人を、経営者と粘り強く交渉し復職させた。労災で死亡した県人に「身寄りがない」として経営者がうやむやにしようとすると、息子を探し出して補償させた
▼県人会は、不当解雇や劣悪な労働条件などの差別や孤独から県人を守る“家”だった。生活を支える組織は戦後、大阪沖縄県人会連合会となり、今年70年を迎えた
▼まだエイサーが盛んではない75年。エイサーを公の場で踊る青年たちに、県人会の年長者が「恥知らず」と怒声を浴びせ、石を投げつけた。沖縄の芸能は県人会館の中で県人だけで楽しむのはいいが、公の場で披露すれば「大和人からの差別を促す」との理由からだった。たどってきた苦難の大きさを物語る
▼だが青年らはエイサーを踊ることで「沖縄の誇り」を取り戻し、差別をはね返す力にした。初回の観客はわずか約100人だったエイサー祭りは今月11日に42回を数え、約2万人を動員する、大正区に欠かせない行事に発展した
▼大阪のように、沖縄の文化を通して誇りを育んだ県外の県系人は少なくないだろう。来月開かれる世界のウチナーンチュ大会で、苦難を乗り越えてきた県系人たちの強い心や経験を学びたい。