<金口木舌>深まる秋、忍び寄る


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 ドラマや映画のワンシーン。夕暮れ時の影が長くなる時間帯、効果音は大抵ヒグラシの鳴き声が入る。しかし直(じか)にヒグラシの声は聞いたことはない。南限は奄美大島という

▼ヒグラシは秋の季語。その鳴き声は秋を感じさせる。清少納言は「枕草子」で、「秋は夕暮れ…日入りはてて、風の音、虫の音など、はた言うべきにあらず」とつづる。秋と虫の声はセットで平安中期から愛(め)でられている
▼百の名歌が収められている「小倉百人一首」では、秋にちなんだ歌が20首ある。夏の4首、冬の5首、春の8首に比べ圧倒的に多い。四季がはっきりしている日本では、紅葉や高い雲、中秋の名月など秋は古くから日本人の五感を刺激する自然に恵まれていたのだろう
▼季節感が乏しいと言われる沖縄でも、紅葉はなくても暦の上では秋。朝夕は幾分涼しく感じる日も増え、台風が去るたびに気温の変化を感じる時期だ
▼今年は1号の発生が過去2番目に遅く、進路も例年と異なり沖縄をそれ、本土に向かうケースが多かった。台風18号が本島地方へ接近している。10月に入り、今年初めての本島直撃となりそう
▼台風が過ぎ去った後の夕焼けは、紫ともピンクとも言い難い、少なくともいつものオレンジ色ではない色に空は染まる。台風被害を思うと、そんな夕焼けを見るのは今年は18号を最後にしたい。