<金口木舌>不条理の絵巻


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 横90メートル、縦1メートルの布にプリントされた怒り、悲しみ、笑い-。1枚1枚の写真が迫力を醸し出す。意味や撮影者の意図を考えると、さまざまな感情が湧き上がる

▼写真家、石川真生さんの「大琉球写真絵巻」が9月21~25日、名護市民会館で開催された。琉球・沖縄の歴史の中で、石川さんが忘れられない、忘れてはいけないと考える事件や出来事を、石川さん流の解釈で再現した3部作67枚が並んだ
▼根底にあるのは「基地を押し付ける日本政府に対する、沖縄人としての抵抗」だ。新たに発表された第3部は制作終盤に発生した米軍属による女性暴行殺人事件も取り上げた
▼「悩んだけど、取り上げなければいけないと思った」。石川さんは開催期間中、会場に常駐した。「全ての意見を自分自身で受け止めたい」という姿勢からは表現者としての覚悟を感じる
▼絵巻の演者はほぼ石川さんの友人や知人だ。基地の抗議行動に携わる人も多い。えも言われぬ迫力は迫真の演技に負うところも大きい。長年不条理を押し付けられている悲しみや政府への怒りが本物だからだろう
▼石川さんはヘリパッド建設が強行される現場で、今はシャッターを切っていない。「多くの写真家が撮影しているから。私は私のやり方で取り上げたい」。政府による不条理な仕打ちが続く現場は、石川さんのフィルターを通すとどう表現されるだろうか。