<金口木舌>世代を超える宝


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 口に含むと、漂うバニラのような甘い香り。すっと通る爽やかな喉越し。大の酒好きとまではいかないが、古酒の深い味わいは少し理解できる

▼取材で、普段飲めない古酒を口にする好機を何度か得た。20年物、30年物。泡盛であって、泡盛でないような。古酒だとここまでおいしくなるんだ、と感じたことも多い
▼先日、名護市にある国指定重要文化財「津嘉山酒造所施設」で、古酒の仕次ぎ式に参加した。仕次ぎとはかめに入った古酒を少しくみ出し、それより少し若い古酒をつぎ足して育てていく手法だ
▼仕次ぎしたのは「津嘉山酒屋保存の会」が発足した2005年から保存する11年物の泡盛「國華」だ。会の島袋正敏さん(73)が、年代の違う古酒の入った三つのかめから慎重に仕次ぎを行った。仕次ぎで熟成を促し、古酒のまま保存することができる
▼島袋さんは「世代を超えてつなぐことができるのが泡盛だ。100年を超える古酒を造ることもできる」と力を込める。飲み干したくなるが、我慢して一手間掛けるだけで、さらにおいしい古酒が造れる。なんて夢があるのだろう
▼なぜ仕次ぎで熟成されるか、科学的に解明できていない。おいしい酒が飲めるなら理由なんて、と思う向きも多いだろうが、解明できれば仕次ぎへの県民の興味も増すだろう。泡盛消費の減少傾向に歯止めをかける鍵になるかもしれない。