<金口木舌>「愚かな風」が吹く島


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 ボブ・ディランの代表曲「愚かな風」の一節に「愚かな風/いつもきみが口をうごかすたびに吹く/南へむかういなか道を吹きおろすよ」とある。今の沖縄を予期したかのような記述に目を見張る

▼ディランのノーベル文学賞決定には驚いた。新聞各紙の1面を飾る一大事だ。そもそもお騒がせの人である。フォークソングの貴公子は突如エレキギターをかき鳴らし、ファンを失望させた。洗礼を受け、一時期は伝道のようなコンサートを開いた
▼本人はだんまりを決め込むが、授賞式に来るのか、何を話すか興味は尽きない。辞退なら仏哲学者サルトルの前例がある。結末はいかに。ディラン風に言えば「答えは風に舞っている」
▼ノーベル文学賞の変わり種に1953年のチャーチルがいる。文才のあった英首相への授与はアジアの小島にも伝わる。本紙も10行足らずの記事を1面に載せた
▼英首相にとって沖縄は戦場だった。45年6月22日、米大統領トルーマンに送ったメッセージで「この戦いは軍事史のなかでもっとも苛烈(かれつ)で名高いものである」と沖縄戦を評した。ここに住民の姿はない。ディランの代表曲名のごとく、首相文士も「戦争の親玉」か
▼形を変えた親玉たちが沖縄で幅を利かせている。「愚かな風」の源だ。飛ばされぬよう踏ん張ろう。ディランも歌っているではないか。「くよくよするなよ」と。