<金口木舌>昔の病気ではない


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 〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉で知られる正岡子規。22歳で結核にかかり、34歳で絶命した。雅号の「子規」はホトトギスの異称だ。何度も血を吐く様子が、激しく鳴くホトトギスに似ていることに由来する

▼結核は明治から昭和にかけ猛威を振るった。「国民病」「亡国病」と呼ばれ、1950年まで日本人の死因の1位だった。著名人では樋口一葉、滝廉太郎、石川啄木、竹久夢二、古くは高杉晋作、沖田総司も結核で早世した
▼治療法が確立した今は過去の病気と思われがちだが、そうではない。世界保健機関(WHO)によると、2015年の新たな結核患者は1040万人に上る(14日付24面)。死者数も前年を30万人上回る約180万人。00年以降減っていたのが増加に転じ、WHOも「衝撃的な数値」と驚くほどだ
▼近年は薬が効きにくい「多剤耐性結核」が流行している。世界の感染者約58万人のうち、インド、中国、ロシアが半数を占める。薬を途中でやめるなど不適切な治療が原因だという
▼日本では15年に約1万8千人が発病し、1900人以上が死亡した。減ってはいるものの先進国の中では高い罹患(りかん)率だ
▼県内でも毎年200~300人の患者が発生している。今年は9月以降、3件の集団感染が確認された。高齢者や体力が落ちている人は注意が必要だ。決して昔の病気ではない。侮るべからず。