<金口木舌>渡久地メロディー


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 1989年、恩納小中学校に1台のグランドピアノが届いた。贈ったのは「お富さん」などで知られる村出身の作曲家・故渡久地政信さん

▼戦前の40年、24歳で里帰りし、同校の子どもたちに「一人前になったらピアノを贈るから」と誓っていた。名誉村民第1号に決まって帰郷した際に目録を贈り、約半世紀ぶりに約束を果たした
▼渡久地さんは恩納村で生まれ、6歳からは奄美で育った。歌手「貴島正一」「藤村茂夫」としてデビューしたが、売れずに34歳で作曲家に転身する。以後、「上海帰りのリル」や「島のブルース」など国民的ヒット曲を次々と生み出した
▼生前「渡久地メロディーの秘密は琉球旋律にある」と語っていた。「踊子」の作曲では、伊豆の海を思い描きながら「上り口説」の三線の音が胸に響いてきたという。代表曲「お富さん」の曲調のルーツは「鳩間節」で、効果音は「四つ竹」をヒントにしたと、本紙連載の自伝「潮騒に燃えて」で明かしている
▼今年は生誕100年。恩納村博物館では誕生日の10月26日から資料展が始まった(20日まで)。曲にまつわる逸話が幾つも紹介され、興趣が尽きない。BGMも流れ、歌謡曲ファンが熱心に見入っている
▼恩納が生んだ昭和歌謡のヒットメーカーをたたえ、村は来年、碑を建立する。先達が古里に寄せた熱い思いに共鳴し、後世まで伝える場になるといい。