<金口木舌>「救えた命」に向き合おう


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 2014年4月、韓国南部で修学旅行の高校生らが乗った大型旅客船が沈没した。死者295人、行方不明9人。捜索作業員8人も犠牲になった。この救難活動を追ったドキュメンタリー映画「ダイビング・ベル セウォル号の真実」を見た

▼「ダイビング・ベル」とは、海中でダイバーが長時間作業するための装置。メンツにこだわる当局の拒否で投入が遅れた上に、現場では妨害を受けた。海洋警察は民間の支援を十分に活用できないまま、沈没した船から1人も救出できなかった
▼幾つもの違法、違反が転覆につながった。さらにずさんな避難指示が多くの命を奪い、救難活動でも救えなかった。韓国社会の複合的な課題があらわになり、今も議論が続いている
▼映画の最後、子どもを失った父親が涙を流して訴える。「なぜ、子どもたちを助けられなかったのか。真相を明らかにしてほしい」
▼「救えた命」への無念は、11年3月の大津波で命を落とした宮城県石巻市立大川小の児童の遺族も同じだろう。先月26日、教育行政の責任を認める判決が出た
▼行政への不信から起こされた裁判。しかし、判決は話し合いの契機にはならなかった。県と市は今月7日、控訴に踏み切った。真相と責任を明らかにし、「救えた命」に真摯(しんし)に向き合うことからしか、和解も防止策も生まれないのではないだろうか。