<金口木舌>外交劇の見得とは


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 芝居が最高潮に達したところで役者が決めの表情や動作をすることを「見得(みえ)を切る」という。歌舞伎では役者が派手な大見得で、大向こうの観客から掛け声が飛び交う場面はおなじみだ

▼写真家の石川真生さんが先日、沖縄芝居の隆盛を支えた名優ら12人の見得を収めた写真展を開いた。多彩な役を演じる役者の姿は歌舞伎とは違う魅力がある。惜しいことに既に8人が他界した
▼25年ほど前、劇場に大型カメラを持ち込み、急ごしらえのスタジオをこさえた。休憩中のわずかな時間を縫っての撮影だったが、熟練の役者たちはきっちり見得を切ってくれたそうだ
▼衣装を買えず、米軍の払い下げ品や古い学生服を仕立て直した時代もあった。俳優が庶民と同じ苦労を重ねたからこそ、芝居に観客が集まった。農民や漁師を演じた名優の見得はウチナーンチュの自写像とも言えそう
▼現実社会に目を転じてみる。先週、安倍晋三首相が米次期大統領のトランプ氏と握手を交わす場面が新聞各紙を飾った。まばゆい照明の下で繰り広げた日米外交劇の序章で見得を切ったつもりだろうが、魅力に乏しい
▼会談後、安倍首相が発した「信頼できる指導者だと確信した」とのせりふはいかなるお客を当て込んだか。米国になびく首相像を演じたのなら、沖縄もうかうかしてはおれない。外交劇の成り行きをしっかり見張っていたい。