<金口木舌>表現力を磨く場


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 「立つな」と指示され、椅子に座る人をいかにして立たせるか。立たずにはいられない場面をつくり、表現力と対話力を駆使して相手をその気にさせるしかない。これがなかなか難しい

▼沖縄市立コザ中学校の芸術表現体験講座で、2年生がその難題に挑んだ。劇団「TEAM SPOT JUMBLE」(宜野湾市)の役者が椅子に腰掛け、生徒たちは言葉を交わして立たせようと試みた
▼役者の当意即妙な切り返しに生徒たちは地団駄を踏み、成功は2グループだけ。一つは隣の釣り人が誤って海に落ちたとして救助に立ち上がらせた。もう一つは合唱コンクールで1人だけ座わる気恥ずかしさを演出し、立たせた
▼講座を担当した役者の島袋寛之さんは言う。「人の気持ちを動かすには対話を続けることが大切。うまくいかないこともあるが、諦めたらおしまい。それを学んでほしい」
▼「村芝居無骨男も駆り出され島人パワー弾けておりぬ」。10月の本紙「琉球歌壇」に載った多良間典男さん(宜野湾市)の一首である。せりふ回しや演技に長(た)けていなくても集落の行事に連れ出され表現力を磨いたのが目に浮かぶ
▼人々をどうつなぐか。違いを理解し対話を続けることでそんな難題も解決してきたのが地域である。長年の工夫で奥行きを増した表現力を眠らせてはもったいない。その価値も掘り起こし生かしたい。