<金口木舌>おもろへの情熱


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 「おもろさうし」を学校で学んだことはなかった。琉球文学に触れぬまま大人になったのは残念に思う。授業で出たはずの短歌や俳句も記憶のかなただ

▼有名な「ゑけ あがる三日月や/ゑけ 神ぎやかなまゆみ」を伊波普猷の「古琉球」で知った。沖縄学の祖は「あれ、天(あま)なる三日月は、あれ、御神の金真弓(かなまゆみ)」と訳し「オモロの詩人は天体の美をも歌うた」と紹介した
▼夏の夜空を仰いで詠んだであろう作者の想像力を「雄渾濶大(ゆうこんかつだい)」と評し、万葉詩人と比較して「到底梅が枝に鶯(うぐいす)の声を聞いて喜ぶ所の詩人が想い及ぶ所ではない」とたたえた。おもろの魅力が、伊波の情熱を帯びて伝わってくる
▼沖縄戦でひめゆり学徒隊を引率した仲宗根政善さんは、東京で伊波の学恩に浴す。「言葉は民族の呼吸」と熱っぽく論じた伊波の姿を戦後の日記に記している
▼1945年5月、伊波は空襲で住居を焼失した。同じころ、仲宗根さんも研究資料を戦場で手放した。それでも研究心は失われなかった。伊波は遺稿「おもろ覚書」を残した。仲宗根さんの研究は「沖縄今帰仁方言辞典」などに結実する
▼伊波や仲宗根さんら先達の研究を受け継ぎ、68年に発足した「おもろ研究会」の例会が今月で1700回を数えた。忘年会を兼ねた会合では仲宗根さんの遺影を掲げた。おもろへの情熱と探求心は、ここにしっかりと息づいている。