<金口木舌>この国の「威信」


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 米国ワシントンDCを訪ね、国立公園「ナショナル・モール」を歩いてみた。リンカーン記念館からワシントン記念塔を経て議会議事堂まで直線で約3・5キロ

▼多くの国家はその威信を示すために広大な空間を設け、そびえ立つモニュメントを建ててきた。米国はここを、国家の威信を示し国民を統合する象徴的空間にしたのだろう
▼第2次世界大戦記念碑があった。完成は2004年というから、意外に新しい。戦勝によって世界に覇を唱えたプライドを見せつけるように、「大西洋側」「太平洋側」のアーチがあり「陸、海、空で勝利」と誇示する
▼そんな国家意志が込められつつも、ここでは大規模な市民集会が何度も開かれてきた。リンカーン記念館への階段を登り切ると足元に「アイ・ハブ・ア・ドリーム」の文字が刻まれていた。1963年、大群衆を前にそこでキング牧師が歴史的演説をした
▼日本にこんな空間はあるだろうか。3年前、強行採決連発の末に秘密保護法が成立した時も、日比谷公園から出発する抗議デモを警察が細かく分断した。国会前や首相官邸前の集会の規制も異常を極めた
▼現代において「威信」は民主主義によって基礎付けられる。しかし、この国の「威信」はうつろで、力ずくの「威圧」ばかりむき出しになっている。威信を取り戻すことを、あきらめるわけにはいかない。