<金口木舌>普通に暮らす


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「人間がただ『普通』に暮らすこと。それを問題に据えないといけない世の中なんです」。ルポライターの鎌田慧さんの言葉だ

▼鎌田さんの指摘の通り「ただ普通に暮らす」ことが難しくなっている。仕事で長時間労働の末、精神的に正常な判断力が働かず、過労死に追い詰められた広告代理店の社員。原発事故で故郷を追われる避難者、働きたくても保育園に子どもを預けられない親…
▼沖縄では「普通に静かな場所で暮らしたい」との願いが、戦後72年たつ今も、かなわない状態が続く。かなわないどころか、基地強化で米軍北部訓練場には新たなヘリパッドが完成し、名護市辺野古では新基地建設の工事が再開された
▼爆音訴訟など裁判で訴えても棄却される。国家権力にあらがえない現状を突き付けられると無力感に陥る。昨年8月、101歳で他界したジャーナリストむのたけじさんは「支配権力は問題を『すり替える』。民衆は真正面からぶつからず『すり抜ける』」と語っていた
▼戦争を「有事」、オスプレイの「墜落」を「不時着」とすり替える政府。国の外交・防衛の問題は「国の専管事項」とすり抜ける人たち
▼鎌田さんは「現状というのは、動くことで変えられる」と語る。むのさんは「私を救えるものは私自身だ」と言う。現実をすり抜けずに考え行動することが、私たちに求められている。