<金口木舌>運命的出会いに導かれて


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 遠藤周作の小説をハリウッドが映画化した「沈黙」が話題だ。主人公ロドリゴのモデル、キャラ神父は江戸の切支丹(きりしたん)屋敷で生涯を閉じた。24年後、その屋敷に同じイタリア・シチリア島出身のシドッティ神父が幽閉される

▼1708年に屋久島に上陸したシドッティは江戸に送られ、棄教しないまま6年後に地下牢(ろう)で息絶えた。47歳だった。新井白石は尋問を機に交流を重ね、得た知識を「西洋紀聞」にまとめた
▼屋久島在住の作家・古居智子さんは、1994年に居を構えた土地がシドッティ上陸地だと知る。その運命的出会いをきっかけに「密行 最後の伴天連(ばてれん)シドッティ」を著した
▼出版から4年後の2014年、切支丹屋敷跡から遺骨が見つかった。DNA分析などでシドッティと断定された。「死後ちょうど300年の遺骨発見は運命的」と古居さんは身震いした
▼「私の仕事は運命的出会いの連続」。そう話す古居さんは今、屋久杉の巨大切り株に名を残す英国人プラントハンター、ウィルソンの足跡をたどっている。100年前に沖縄で撮影された写真の紹介を本紙で連載中だ
▼秋に県立博物館・美術館で「ウィルソンが見た沖縄」展が開かれる。担当者の一人はウィルソンに同行した植物学者・園原咲也(さくや)の孫・謙さんだ。運命的出会いの連鎖は、時を超えたメッセージを伝えるための「導き」なのかもしれない。