<金口木舌>空手とお墓の縁


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 先月17日付の本紙1面に載った沖縄空手会館の写真に意外なものを見つけた。正面玄関と駐車場の間に2基のお墓があるのだ。1基は立派な亀甲墓である。気付いた読者はいるだろうか

▼県によると、周辺には6基のお墓があり、持ち主もいる。清明祭になれば親類縁者が集まる。空手会館を整備するに当たって、県は持ち主と話し合った結果、移築せず現地で保存することに決めた
▼かくして来館者は正面玄関をくぐる前にお墓と対面することになる。独特な形をなすお墓は沖縄文化の表れであり、県民生活の一部だ。先人が技術を注ぎ込んだお墓と現代建築の粋を集めた空手会館は不思議な調和を保っている
▼実は空手の伝承とお墓は縁がある。空手がまだ「ティー」(手)と呼ばれた琉球王府の時代にさかのぼる。人目を忍んで空手を学び、弟子に伝える場が「ハカヌナー」(墓の庭)であったという
▼今野敏さんの連載小説「武士マチムラ」の主人公で、泊手中興の祖とされる実在の空手家・松茂良興作は、天久聖現寺近くのお墓で鍛錬を積んだ。墓の庭で腕を磨いた松茂良は祖先を敬い、伝統を守る信念を固めたのだろう
▼空手会館は4日に開館する。伝統空手の継承と世界の空手家の交流拠点が生まれる。周囲には祖先を慕うウチナーンチュが集うお墓が点在する。沖縄の文化と暮らしを象徴する場になりそうだ。