<金口木舌>オレンジ・マラソン


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 「富士」と「桜」。日本を象徴する言葉をわが子に命名したベトナム人がいる。「ベトちゃんドクちゃん」で知られるグエン・ドクさん(36)だ

▼枯れ葉剤の影響で結合双生児として生まれ、日本の医師団の支援で1988年に分離手術に成功したことから、日本への感謝の念は強い。兄ベトさんは2007年に他界した。ドクさんは結婚し、09年に男女の双子を授かった
▼兄弟の存在を日本に伝えたのが報道写真家の中村梧郎さんだ。70年からベトナムに足しげく通い、枯れ葉剤被害の実態を訴えてきた。米軍はベトナム戦争の10年間で枯れ葉剤約8千万リットルを散布した。480万人が直接浴び、被害は世代を超え300万人以上に及ぶという
▼十分な医療や職もなく困窮する被害者を支えようと、中村さんは来年1月、ベトナムでチャリティーマラソン大会を計画している。題して「オレンジ・マラソン」。南国の果物と、枯れ葉剤を示す「エージェント・オレンジ」を掛け、化学兵器の名を平和キャンペーンに逆用した
▼参加費から一部を被害者支援に充てる。ドクさん一家や五輪金メダリストの高橋尚子さん、在米帰還兵らも協力する
▼沖縄はベトナム戦争の出撃基地であり、疑わしいドラム缶も見つかった。中村さんは「枯れ葉剤は人ごとではない。沖縄、日本の問題でもある」と語る。沖縄からも協力できる形を探したい。