<金口木舌>分断にあらがう力


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 組合の長引くストの切り崩しを図る会社側。それを必死で防ぐ組合員が恐れるのは「仲間を裏切ること」「誰かが苦しさに負けてひよること」。仲間がここでピケを張っていなければ「俺がひよったかも」と心境を明かす

▼浦添市の米軍キャンプ・キンザー内ミルクプラントが1996年に閉鎖されるまでの基地従業員の闘いを描いた演劇「沖縄ミルクプラントの最后」の一場面である。東京演劇アンサンブルが今月、東京で上演した
▼基地従業員が「解雇撤回」と「基地撤去」を同時に掲げる矛盾、沖縄戦を体験しながらも米軍の戦争に加担してしまうことへの葛藤を描いた。沖縄が抱える複雑な問題に深く迫る挑戦的な作品だ
▼演出した松下重人さんは「二重三重にも引き裂かれた彼らの苦悩が分かるか」と自問し、その可否を言う前に「試みてみなければ分からない。諦めない」と思いを記す
▼稽古場から2千キロ以上離れた沖縄との距離を、団員は想像力で乗り越えることを試みた。それは難しく、痛みも伴う。「傲慢(ごうまん)かもしれない」が「避けて通れない」の言葉に、ヤマトの無関心に一石を投じる意気込みがあふれる
▼基地と暮らしの間で葛藤や分断を経験してきた沖縄。この劇が基地従業員を通して描いた「一人の人間として生きる姿」は、今まさに強行されている新基地建設にあらがう沖縄の原点に思えてならない。