<金口木舌>避難解除といっても


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 静かだった。昼間だというのに不気味な静けさだった。東京電力福島第1原発事故で住民が避難を強いられた福島県浪江町を、先週末、地元の人と歩いた。日中だけ立ち入りが許された地域だ

▼かつてはにぎやかであったろう浪江駅前の商店街。震災で屋根や壁が崩れたままの店、床に食器が散乱した飲食店が今なお残る。上半分だけ残って寒風に揺れるシャッターが切ない
▼時折通るのはマスク姿の作業員を乗せた車ぐらい。人っ子一人歩かない通りで、信号機だけが無機質に赤青黄のサイクルを繰り返す。6年前から時が止まり、街が呼吸していない。1年前に各地で見掛けた除染作業はほぼ終了し、今回は「解体中」の旗が目立った
▼浪江町と飯舘村、川俣町の避難指示がきょう、富岡町はあす解除される。どれだけの住民が戻るのか。駅前の測定装置が示していた放射線量は毎時0・28マイクロシーベルト。被ばく基準の0・23マイクロシーベルトを上回る。店も学校も病院も再開しないと生活は厳しい。先に解除された地域の帰還率は13%止まりだ
▼福島県による自主避難者への住宅無償提供も、きょうで打ち切られる。東電や国の後始末が進まない一方で、帰還しない避難者には負担がのしかかる
▼「東京五輪までに安全を取り繕っておきたいんだろう」。何人もが口をそろえた。国策の失敗を覆い隠す政府の姿が、福島からはよく見える。