<金口木舌>世界にはびこるゾンビ


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 ここ数年、ゾンビがブームだ。東京ジョイポリスのゾンビと戦う仮想現実ゲームは、休日は予約でいっぱい。ゾンビがはびこる世界を描いた芥川賞作家の小説や「ゾンビアイドル」まで登場した

▼よみがえった死者が人をかみ、かまれた人もゾンビになる。そんなゾンビ像は1968年の米映画で定着した。映画「バイオハザード」は日本でも人気を集めた。ハロウィーンでのゾンビ仮装も増えた
▼去る大戦の反省から死んだはずの「戦前」がゾンビのように復活し、きな臭さが広がっている。米国のシリア攻撃や北朝鮮情勢は緊張を高めている。化学兵器使用や核開発・配備強化などは壊滅的戦争の兆しを示す
▼日本でも“ゾンビ”が闊歩(かっぽ)している。戦前の軍国教育の柱だった教育勅語もその一つ。戦後すぐの国会で排除を決議したが、安倍内閣は教育現場での使用を正式に認めた
▼防衛力の増強や武器の輸出競争に勝つため、大学の科学者らに軍事応用が可能な基礎研究を助成する防衛省の公募制度は予算額が年々増えている。日本の科学者でつくる日本学術会議は危機感を抱き、総会で「政府による介入が著しく、問題が多い」とした声明を会員に伝えた
▼「敵」の脅威から軍拡が軍拡を呼ぶ負の連鎖は、かまれたらゾンビになるありさまのようだ。軍事研究に関しては50年ぶりの学術会議の声明に一筋の光明を見た気がする。