<金口木舌>継承への一歩


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 故郷の言葉には、すっと心に染み入る力がある。時には、しまくとぅばが垣根を越えて人を近付ける。堅苦しくなりがちなあいさつに、ひと言取り入れて場を和ませる人も多い

▼「いっぺがはまやびた」。金武のしまくとぅばで「大変よく頑張りました」との意味だ。お年寄りの健康づくりのため、金武町で開かれた「ちゃーがんじゅう教室」の修了証書の一文。受け取った人たちに笑顔が広がった
▼作ったのは、教室を主催する町地域包括支援センターの若い職員。参加者に喜んでもらいたいと、地元の高齢者に指導を受けて文章を作成した。手渡された人は「ちゃんと金武の言葉を使っているね」とうれしそうだった
▼海外に移住した県系人の間に、しまくとぅばがしっかり残っていることに驚いたことがある。来沖した南米の県系人に会った時のこと。2世の男性は「これが日本語だと思っていた。日本に来たら通じないので驚いた」と話した
▼県系人の間でも世代を経るにつれ、しまくとぅばを含めた日本語を話すことができない人が多くなる。一方、アイデンティティーを模索する中で、沖縄に住む人以上に沖縄の言葉や文化にこだわりを持つ人もいる
▼かつて方言札があり、人前で話すことさえできなかった言葉。継承の努力がさまざまな形で始まっている。少しずつでも日常に取り入れることが、未来へ伝える一歩になる。